東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1421号 判決 1981年2月24日
控訴人
金井博
右訴訟代理人
木村昇
被控訴人
志村金正
被控訴人
有限会社協豊運輸
右代表者
志村金正
右被控訴人ら訴訟代理人
中野高志
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「一 原判決を取り消す。二 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、金一四〇〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実主張は、控訴人が「一 控訴人には、本件事故による後遺症が残存している。控訴人が右後遺症を認識したのは、後遺症が固定した昭和五〇年一二月二五日であるから、本件事故の損害賠償請求権の消滅時効は、同日から起算すべきである。二 仮に本件事故の日を消滅時効の起算日とすべきであるとしても、控訴人は昭和四八年九月二〇日に市川共立外科を退院してから昭和五〇年二月一〇日ころまでの間に、被控訴人会社代表者兼被控訴人本人志村金正に対し五回ほど電話で、本件事故による損害金を支払うよう催告しているから、これによつて時効は中断している。」旨述べ、被控訴人らが、控訴人の右主張を争うと述べたほか、原判決の事実中に「第二、当事者の主張」として摘示されているとおり(<原判決中の加削省略>)であるからこれを引用する。
証拠<省略>
理由
一<証拠>を総合すると、控訴人主張の請求原因一及び二の各事実並びに同三の第一、二項の各事実を認めることができる。
よつて被控訴人有限会社協豊運輸は、民法第七一五条第一項、自動車損害賠償保障法第三条本文により、被控訴人志村金正は民法第七一五条第二項により、控訴人に対して、控訴人が本件交通事故によつて被つた損害を賠償すべき義務を負つたものというべきである。
二そこで被控訴人らの消滅時効の抗弁について判断する。
前示証人、控訴人本人、被控訴人志村金正本人の各供述及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は本件交通事故にあつた直後のころ、これによつて自分の受けた傷害がどのようなものであるかはもちろん、被告車の運転者がその保有者である被控訴人会社に運転手として勤務している内藤栄一であり、被控訴人会社の代表者が被控訴人志村金正であることを知つたことが認められ、また、控訴人が本件事故によつて受けた前示傷害の部位、程度からすれば、控訴人に現に存する症状(後遺障害)は、本件交通事故にあつた当初のころに、これを予想できなかつたものではなかつたと考えられる。前示甲第四号証の記載によれば、控訴人の症状(後遺障害)が医療上固定したものとされたのは、昭和五〇年一二月二五日であることが認められるが、これによつて右認定が左右されるものではない。そうだとすると、控訴人の被控訴人らに対する本件交通事故による損害賠償請求権については、控訴人に前記症状(後遺障害)の存することによるものをも含めて、本件交通事故発生の日である昭和四七年一二月一五日の直後のころから、その消滅時効の進行を開始したものというべきである。
そこで控訴人の時効中断の主張について案ずるに、前示控訴人本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は昭和四八年九月二〇日に市川共立外科を退院してから昭和五〇年二月一〇日ころまでの間に、被控訴人有限会社協豊運輸代表者兼被控訴人本人志村金正に対し何回か電話で、本件交通事故による損害金を支払うよう催告したことが認められるが、たとえ控訴人がかかる催告をしたとしても、その後六月内に控訴人が被控訴人らに対して裁判上の請求、和解のためにする呼出し若しくは任意出頭、破産手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしたことについての主張立証のない本件にあつては、右催告は民法第一五三条の規定により、時効中断の効力を生じないものといわなければならない。よつて控訴人の前記主張は採り得ない。
よつて控訴人らに対する前記損害賠償請求権については、昭和四七年一二月一五日の直後ころから、三年を経過した昭和五〇年一二月一五日の直後ころに、その消滅時効が完成したものといわなければならない。被控訴人らの抗弁は理由がある。
三以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、いずれも理由がなく、棄却を免れない。
四よつて右と同旨の原判決は相当であり、控訴人の本件控訴はいずれも理由がないので、民事訴訟法第三八四条第一項に則つてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(林信一 宮崎富哉 石井健吾)